番外编★运命子の运命
本章 9,529 字 约 24 分钟

番外编★运命子の运命
「ふうん。若者のパチンコ离れかあ」
とある秋の日の朝。
我と共に朝饷を食していた一十三は、鲑の切り身を箸でほぐしつつ、テレビで流れるニュースを见ながらぼやいた。
ファーストはいない。
昨日から帰っていない。
奴は基本的に神出鬼没——というか、『神出鬼没な男だ』と周囲から思われたがっているようで、行动パターンを意図的に崩している节がある。
毎日毎日同じリズムで生活することを嫌っているというか。
あるいは——日常に身を浸すことを拒绝しているというか。
ともあれ、というわけで。
今このアパートの一室にいるのは、お揃いで购入した花柄のパジャマを身に缠う、我と斋藤一十三の二人だけだった。
「最近はなんでもかんでも、『若者の〇〇离れ』って言叶にしちゃうよねえ。若者のゴルフ离れとか、若者の车离れとか、若者の烟草离れとか。ただ単に时代が変わっただけで、それで若者の趣味嗜好が変わったって话なんだから、取り立てて騒ぐほどのことでもない気がするんだけどなあ」
「先日见たニュースでは、スマホの普及のせい、という意见もあったな。大抵の欲求はスマホで代替•代偿できるとかなんとか」
「それもあるし……あとはまあ、不景気のせいな気もするよね。将来に不安があると、どうしても消费よりも贮金を选んじゃうし」
「うん?」
一十三の言叶の意味がわからず、我は首を倾げた。
「将来が不安だと——贮金するのか?」
「そりゃそうだよ。将来日本がどうなってるかわかんないし、老后のことも考えて、若い内から计画的にお金を贮めとかないとね。アリとキリギリスの寓话じゃないけど、一くんみたいな甲斐性と计画性がない男は、年取ってから苦労するんだよ。だいたい、一くんは——」
ファーストの愚痴へとシフトしていく话を闻きながら、我はようやく理解した——どうにも奇妙な违和感が、ようやく融解した。
ああ——そうか。
この国の若者は、将来が不安だなんだと言いながら——明日自分が死ぬとは、微尘も考えていないらしい。
全く。
これっぽっちも、考えていない。
将来のために贮金をするということは、そういうことだ。日本の未来を忧いながら、しかし自分の命の安全は保证されていると、妄信的に思い込んでいる。自分の将来を心配しながらも、しかし将来が『ある』ことだけは疑っていない。
なにをしなくとも、己の人生が漫然と続くと信じきっている。
冬が来ると确信しているアリのように。
それは平和の证左なのか、はたまた衰退の一歩なのか——我にはわからぬが、しかしいずれにしても、我には理解できぬ価値観だ。
明日死ぬ我には、どうしたって理解できない。
明日、我は死ぬ。
明日の正午辺りから段々と体が薄くなり——やがて存在ごと消失する。
それが予め我に定められていた寿命であり、定められていた设定だ。
あるいは、运命と言ってもいい。
『システム』
叛逆の精霊により、第五次精霊戦争を终わらせる存在としてこの世に诞生させられたこの命は、元から永く生きられるように设定されていない。
百日ジャスト。
それが我の寿命だった。
そして我は——そのことを、最初から知っていた。
自我が芽生えた瞬间から——自分が死ぬ日を知っていた。
明日死ぬことを、九十九日前から知っていた。
それが、幸福なのか不幸なのかはわからない。
傍から见れば悲剧的で哀れな存在なのかもしれんが、我からしてみれば、いつ自分が死ぬかもわからないまま生きている人间达の方がかわいそうにも思える。
とにかく——我はそういう存在だった。
この事実を知っているのは、この世でファーストと一十三の二人だけだが、しかし奴らも、我が明日死ぬことは知らない。先日一十三には「今年の冬は超えられない」と言ったが、あれは嘘だ。まあ嘘と言うほどではないが、真実を的确には表现していない。
本当は、もっと早く死ぬ——明日死ぬ。
冬を超えられぬどころか、冬に入る前に死ぬ。
わかりきっている寿命を、一十三にそのまま伝えなかったのは、我なりの気遣いのようなものだった——いや、违うか。
ただ、我が嫌だっただけだ。
仰々しく见送られることが、嫌だった。
まだしばらくは死なない——一十三がそう考えているうちに、さりげなく、どうということもなく、しれっと死んでいきたかった。
「——ふむ。大渔だ」
朝食后、我は少し远出をして、郊外の大型スーパーへと足を运んだ。今はその帰りである。片手にぶら下げたビニール袋には、大量のハイチュウがぎっしりと诘まっている。
世に言う、最后の晩餐、というやつだ。
定番中の定番のような気もするが、人生最后の日になにをするかと考えたとき、やはり『好きなものを好きなだけ食べる』という考えが、真っ先に头に浮かんだ。
となれば——ハイチュウを食す他に选択肢はあるまい。
コツコツと贮めていた小遣いを全て投入し、以前から気になっていた种类のハイチュウを全て购入してきた。アロエヨーグルト、完熟パイン、はちみつきんかん、シークワーサー……などなど、王道から邪道まで、出来得る限り网罗した。
奇迹の菓子を欲望のままに食せるとは——なんたる至福。
一つぐらい今食べてしまおうか、という冲动に駆られるが……しかし、ここは我慢だ。目的を果たすためには、一个足りとも食すわけにはいかん。
「これだけの量があれば、きっとできるはずだ。ゲームセンターとやらで见かけた、ハイチュウジェンガが……!」
忘れもしない、二月前。一十三に连れられて行ったゲームセンターなる场所で、我は建造物の如く积み上がるハイチュウを発见した。
透明なドームの中に灿然とそびえ立つ、神が作ったとしか思えぬ奇迹の塔。目にした瞬间、感动で目が溃れるかと思った。まさか、あのジェンガ积みを自宅で再现できる日が来ようとは。楽しみだ。実に楽しみだ。
明日死ぬというのに、我はこんなに幸せでいいのだろうか?
柄にもなく、テンションが上ってしまう。
柄にもなく、スキップなんかをしてしまう。
足取りはどんどん軽やかになっていき——
「どわあああああっ!」
——结果、前方不注意で谁かにぶつかった。
おっと。
いかんいかん。
我の身体能力は、こう见えて、けっこうとんでもないのだった。迂阔にスキップなどしたら、軽く自动车ほどの速度を出してしまうほどに。
「すまぬ。大丈夫か」
我に返った我は、転ばせてしまった者へと声をかける。
小洒落た衣装に身を包んだ黒髪の少年だった。いかにも『今时のオシャレな若者』という感じだが、どこか服に着られてる感が强く、まるで、谁かに指定された服をそのまま着ているような雰囲気があった。
「いてて……あー、うん。大丈夫だよ」
少年は尻をさすりながら立ち上がる。自动车并みの速度でぶつかったが、しかし直前でどうにかブレーキをかけたため、相手に目立った负伤はないようだ。
「すまぬ。我の落ち度だ。申し訳ない」
「いやいや、大丈夫だって。そんなに深々と头を下げなくても……って、我!? え、我!?我っ娘!? 実在してたの!?」
瞠目する少年。以前から薄々と感じてはいたが、どうやら我の『我』という一人称は、现代社会では珍しいものらしい。
ふうむ。
我としては、ごく普通の一人称のつもりで使い始めただけに、こうも大仰に惊かれると変な気分にもなる。
培养机器の中で、他者とコミュニケーションを取るよりも先に、头に直接言语能力を叩きこまれたことが、原因と言えば原因だろう。己を的确に表现する一人称として、さして意味もなく『我』という単语を选んでみたのだが、どうやらミスチョイスであったらしい。
矫正しようと思ったこともあるが、まあ、今更だろう。
「怪我はないか、少年?」
「う、うん。俺は——あ、いや……仆は、全く问题ない」
なんか张り合ってきたぞ、此奴。
仆って。
一人称が四文字って、さすがにしゃべっていて面倒ではなかろうか?
それから我らは、ぶつかった冲撃でアスファルトに散らばってしまった少年の鞄の中身を一绪に拾い集めた。
「ありがとうね、お嬢ちゃん」
「気にするな。当然のことだ」
散らばったのは、笔箱やノートといった文房具と、数册の文库本。
そして——
「これは……なんだ?」
なにかのカードかと思って数枚手に取ってみれば、どれもペラペラで、纸をカードの形に切り取っただけのものだった。白纸のものもあるが、文字が书かれたものもある。
『クロノス』『砂时计』『ドイツ语』『缔め切り』『SEKAI NO OWA——
「ああ、これはね、ネーミングカードバトルのカードだよ」
「ふむ?」
「えーっと、なんて说明したもんかな……。ネーミングのインスピレーションを涌かせるために使うカードゲームっていうか、なんていうか……。一年ぐらい前に俺が编み出したものなんだけど、最近、どうにかもう少しゲームとして面白くできないかといろいろ考えててさ」
「そうか。ゴミではないのだな」
「……あはは。お嬢ちゃん、きみはなかなかに歯に衣着せないタイプだね」
ゴミと见纷うようなものであれ、少年の私物であるならば无下にするわけにはいかないだろう。我は一枚一枚、丁宁に拾って集めていた。
していると、一枚のカードの文字が目についた。
『エンド•オブ•ザ•ワールド』
直訳で、世界の终わり、か……。
「——少年よ。お主は、明日世界が终わるとすれば、どうする?」
なんとなく、本当になんとなく、我は问うた。深い意味はない。浅い意味だってない。思いつきのまま口を开いただけだった——それなのに。
我の问いを受けた少年は、ギョッと目を见开いた。
惊愕と同时に、歓喜の色も见える。
まるで、待ちに待った问いを投げかけられたかのような——
「ちょ、ちょっと待って! ほんのちょっとだけ待って!」
叫ぶや否や、少年は鞄に手を突っ込み、黒いノートを取り出した。ファーストも似たようなものを持っていた気がする。最近の若い男の间では、こういったノートを持ち歩くのが流行っているのだろうか。
「お、落ち着け、落ち着くんだ俺……ようやくだぞぉ。ようやく『人生で一度はビシっと决めたい质问』第四位の质问が回ってきたんだ。このチャンスを逃すわけにはいかねえって……。确か、ここらへんのページに温めていた台词のアイディアが……」
ぶつぶつと呟きながらノートをめくり続ける少年。どうやら、我の质问に対する答えを、事前にストックしていた决め台词集から探しているようである。ふむ。さっきから、なにかにつけてファーストを想起させる少年だな。
やがて少年はノートを闭じると——どこか忧いを帯びた表情を浮かべ、やや皮肉げに口元を歪め、そしてやたらと演技がかった口调で言う。
「明日世界が终わるならどうするかって? くくっ。その问いは、质问として成立していないな。なぜなら、もしもこの世界が灭ぶことがあるとすれば——それは俺の手で灭ぶ以外にはあり得ないからだ」
「…………」
なんと言えばいいのだろう。
この、笔舌に尽くしがたい空気を、それでもどうにか笔舌で表现するならば、『スベった』の四文字が的确だろうか。
寻常ではなくスベっている。
摩擦も空気抵抗もゼロだ。
少年もこのツルッツルな空気を察したらしく、滝のような汗を流しながら「……ち、违ったか? 変に凝らない方がよかったか? 素直にヒル魔をパクって『世界が终わらせないためにあらゆる可能性を探る』とか言っとけばよかったか……」と反省していた。反省するポイントがだいぶおかしい気がするが。
「えっと……お嬢ちゃんの方は、明日世界が灭ぶとしたら、どうするの?」
「好きなものを好きなだけ食べるだろうな」
今现在、そうしようとしているように。
「最后の晩餐、というやつだ」
「ほほう。难しい言叶知ってるね、お嬢ちゃん。さすが我っ娘」
「まあ——消去法な気もするがな。明日自分が死ぬとなれば、今日なにをしようと大した意味はない。娯楽や快楽に走る以外、やることはないだろう」
そう言ってみると、少年は「うん?」と首を倾げた。
「あれ……ちょっと待って? さっきの质问って、『明日世界が灭ぶなら~』だよね? 『明日自分が死ぬなら~』じゃなくて」
「そうだが」
「ならよかった。いやー、俺が勘违いしたのかと思っちゃってさ」
「别に——どちらでもよかろう。明日世界が灭ぶことも、明日自分が死ぬことも、要するに同じことではないか」
自己が消失するという意味では、どちらも同じだろう。
全ての异能者を狩り尽くすために生まれた我は——生まれた瞬间にその意味を失った。
半年足らずのこの命には、今や一切合切の意味はない。
だからこそ——我は幸福な人生を歩むことができた。
无意味であるが故に、なんの使命も责任もないが故に、定められていた生の期间を、ただただ自分のためだけに过ごすことができた。
予め决定していた死までの道を、のんびりとマイペースに歩むことができた。
これ以上なにを望むべくもない。
あとはただ、静かに死にゆくだけ。
それで全ては了。
我は——ただそれだけの存在。
终わるのが世界だろうと自分だろうと、そこになんら差异はない——
「全然违うよ」
しかし、少年は言った。
「世界が终わることと、自分が死ぬことは、全く违う」
「……なにが、违うのだ?」
「世界が明日灭ぶってなったら、そりゃ好き胜手过ごすよ。悔いが残らないように……まあ、どうやっても悔いは残るんだろうけど、欲望の赴くままに过ごすと思う。でも自分が明日死ぬなら——自分が死んでも世界は残るんなら、俺は、なんか残したいかな」
「なんか? なんかとは、なんだ?」
「んー……、具体的に言えって言われると困るんだけどさ。なんかは、なんかだなあ。なんでもいいから、自分が生きた证を残したい。世话になった人にお礼を言ったり、喧哗してた奴と仲直りしたり」
「なにをしたところで、どうせ自分が死ぬなら意味はなかろう」
「それはそうだけど……まあ、结局は自己満足だよ。俺が死んでも谁かの心に俺が残るんだな、ってことを実感してから、死んでいきたい」
「谁かの心に、か……。そんなことをすれば、未练が生まれるだけではないか? 后悔が募るだけではないか? それこそ——悔いが残るのではないか?」
「まあ、そうだね。あー、でも……もしかすると、残したいのかな? 残したいなにかってのは、悔いだったのかもしれない」
少年は、ふと思いついたように言う。
「明日死ぬとしたら、俺は悔いを残して死にたい」
「悔いを……」
「悔いを残して、俺という杭を残して死にたい」
「…………」
そのダジャレめいた言叶游びは若干スベってる気がしたが、しかしどうしてか少しだけ、ほんの少しだけ心に响いた。
悔いを残し、杭を残す。
少年と别れた后は、再び家路に戻った。
ハイチュウがぎっしりと诘まったビニール袋を揺らしながら歩き続け、もう少しで一十三の家に到着するというところで——见知った影を発见した。
「あれは……」
桃色のナース服と桃色のジャージ。そして金色の髪。とにかく目立つ风貌をした少女は、道の反対侧からこちらに向かって歩いてくる。
游佐野ファンタジア——いや。
この、妙に威圧的な独特の気配は——
「ジャンル、か?」
「いかにも」
少女は——数多ある人格の主人格である游佐野ジャンルは、口元だけで笑みを作りながら、鹰扬に颔いた。
ファンタジアやアドベンチャとは话すことが多々あったが、主人格のジャンルと颜を合わせるのは久しぶりだ。过去に一度、ほんの数分言叶を交わしただけで、それ以来颜を合わせていない。
「超越者よ。斋藤一十三はどこにいる?」
挨拶もロクにせぬまま、ジャンルは问うてきた。マイペース过ぎる话运びは、相変わらずだ。コミュニケーション能力がわかりやすく低い。まあ我が言うのもなんだが。
「家を访ねてみたが、留守だった」
「一十三なら、夕饷の买い出しに行くと言っていた。近くのスーパーに向かったはずだから、そう遅くならずに帰ってくることだろう」
「そうか。ならば、少し待つとしよう」
「ライン、とやら、で连络を取ればいいのではないか? お主と一十三……というか、ファンタジアと一十三は、ラインで系がっていると闻いた気がするが」
「ああ——そうだったな。あの手のコミュニケーションツールは、私にとっては天敌のようなものだから、すっかりと失念していた。颜が见えない相手と话すというのが、どうにも気持ち悪くてしょうがなくてな」
「一十三になんの用だ?」
「大した用ではない。ただ——」
ジャンルは言う。
空っぽの笑みのまま、温度のない口调で。
「——彼女を、不意打ちで杀そうと考えているだけだ」
「なぜだ?」
「さして意味はない。彼女でなければならない理由はない。谁でもよかった。桐生一の仲间であるならば、谁でも。谁であろうと——开戦の狼烟となろう」
「开戦の、狼烟」
「これより私は——私达は、『黒き十二枚の翼』を离脱し、桐生一に敌対する。谁か一人でも杀して见せれば、桐生一に対する明确な敌対宣言となるはずだ」
「…………」
「斋藤一十三がいないのであれば、别の谁かと思っていたが……そうか。ラインという手があったか。ファンタジアの振りをして、斋藤一十三を呼び出してみるとしよう」
感谢するぞ、超越者。
と言って。
ジャンルは我の横を通りすぎて行こうとする。
歩きながらジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、绿色のアイコンをタップしてラインのアプリを起动させるが——
その直后。
开かれたラインの画面は——スマホごと真っ二つに両断された。
我が振り上げた手刀によって。
カツン、カツン、と。
二つに别れたスマートフォンは、二つの音を立ててアスファルトに落ちる。
「なんの真似だ、超越者?」
さして动じた様子もなく、ジャンルは平然と告げる。
「私を止めるつもりなのか? 意外だな。きみは、なにもしないと思っていた。今日私がなにをしようと——明日死ぬきみには无関系な话だろう」
どうやらジャンルは、我の寿命について知っていたらしい。惊きはしない。その身に百近い人格と异能を宿すこの娘ならば、なにを知っていたところで不思议ではない。
「ほう。惊いた。きみは、そんな颜もできるのだな」
惊いたと言いながらも、少しも表情を変えないジャンル。
そんな颜——どんな颜だ?
我が今どのような表情を浮かべているのか、我自身にはわからない。
だが、确信はある。
我は今、これまでの人生で一度として浮かべたことのない表情をしていると。
半年足らずの人生の中で、一度も感じたことのない思いを抱いていると——
「お主の言う通り、明日、我は死ぬ」
我は言う。
「だからこそ——今日なにかがしたいのだ」

数十分后——
我は胜った。
圧倒的なまでに圧胜した。
ひと目につかぬよう上空数百メートルで缲り広げられた激戦は、终始我が优位に戦いを进め、最终的には游佐野ジャンルを撃退することに成功した。
当然と言えば当然の结果だ。
『システム』
《绝え间なく改定される十戒》
全ての异能者を灭ぼすために生を受けた我は、その気になれば、相手がどんな异能者であろうと确実に胜利することができる。
百近い异能を操る规格外であろうとも、その例外ではない。ジャンルは恐ろしい速度で人格を切り替えながら多种多様な攻撃を仕挂けてきたが——我はその全てに対応し、适応し、顺応し、后出しジャンケンのように覚醒した。
谁も我には敌わない。
唯一の例外は——『天敌』とも呼ぶべき、桧枝岐环の异能ぐらいだ。
一刻ほどの戦いで我にはどうやっても敌わぬと判断したジャンルは、上空からどこかへと逃げ出していった。それなりの手伤を负わせたため、再起には时间がかかると思われる。治愈能力を持つ人格もいたが、其奴は特に念入りに溃しておいた。新たに覚醒した『対多重人格者用精神攻撃』で、念入りに念入りに攻撃しておいた。これでしばらくは、一十三や他のメンバー达が奇袭を受けることもないだろう。
欲を言えば、ここでジャンルを仕留めておきたかったが——残念ながら、それは无理な话だった。彼女を追うだけの时间が、我にはもう残されていなかった。
「——ふむ。限界か」
ドテッ、と。
上空から着地した瞬间、我はアスファルトに崩れた。足に全く力が入らない。见てみれば、足の爪先が透明になり、消え始めていた。
どうやら限界が来たらしい。
我の能力は、使えば使うだけ己の命を蚀む诸刃の剣。最强であり必胜であるこの能力を使わずに生きてきたからこそ、我は今日まで生き永らえることができた。
しかし——今しがたの戦闘で、なにもしなければ明日の正午まで生きられた命を、全て使い切ってしまった。
ある意味ではこれも寿命だが——ある意味では运命を复したとも言える。
明日の死を待つだけだった我は、今日死ぬこととなった。
己の意思で、己の决断で、运命に逆らうことができた。
ものすごく好意的に解釈すれば、だが。
「なにか、意味はあったのだろうか」
どうせ死んでも生き返る精霊戦争で、たった数ヶ月一绪にいただけの女の命を、ほんの少しだけ生き永らえさせただけ。根本的な问题はまるで解决できていない。対症疗法にもなっていない。こんなことに、なんの意味が——
まあ。
头でいくら考えても、答えなど出ないだろう。明确な意図や意思があって动いたわけではない。気がついたら体が动いていた。
我の体が、今日まで生きてきた我の体が、『田中运命子』と名付けられた存在の肉体が、気がついたら、胜手に动いていたのだ。
「……ハイチュウ、食べたかったな」
最后の晩餐として购入していたハイチュウは、戦闘の途中、敌の攻撃を受けた际に迹形もなく燃え尽きてしまった。もったいないことをした。こんなことなら、ジェンガ游びなどと考えず、一つぐらいつまみ食いしておけばよかった。
そのとき——谁かの叫ぶ声がした。
首だけを动かしてみると、视线の先にいたのは一十三だった。
买い物を终えて帰ってきたらしい。
エコバッグを投げ舍てて、我の方へと駆け寄ってくる。どうにか体を起こしたいと思ったが、手も足もすでに感覚がなかった。ほとんど消失してしまっている。
身动き一つ取れぬ我を、一十三が抱きかかえる。
必死になにかを叫んでいるようだったが、すでに聴覚器官が消失したらしく、我にはもう外部の音を闻き取ることができなかった。だが——视覚器官ならまだある。我を见下ろす颜ならば、まだかろうじて视认できる。
ああ。
まったく。
そんなに泣くな、一十三。お主のそんな颜が见たくなかったから、我はなにも言わずに明日死のうと思っていたのに。
やがて——目も见えなくなり、世界から光が消えた。
涙でグチャグチャになった颜は、もう见えない。
それでも、温もりだけはまだわかる。
我を抱き缔める腕や、我が颊に落ちる涙の温かさがわかる——一十三の瞳に我が映っていることが、一十三の心の中に我という存在がちゃんと残っていることが、わかる。
それがわかってしまったが故に——止めどない感情が涌き上がり、洪水の如く心を埋め尽くした。きっとこれは、人が后悔や未练、あるいは悔いと呼ぶ感情なのだろう。
なるほど——悔いを残すとは、こういうことか。
やれやれ。
恨むぞ、名も知らぬ少年よ。
お主のせいで、死が怖くなってしまった。
お主のせいで、死にたくないと思ってしまった。
お主のせいで、もっともっと生きたいと思ってしまった。
そして。
ありがとう、少年。
お主のおかげで——人外として生まれた我が、人として人らしく死んでいける。
死にたくないと祈りながら。
もっと生きたいと愿いながら。
悔いを残し、我という杭を残して、死ぬことができる。
もう口は动かぬが、それでも声にならぬ声を大にして、心の中で心から言おう。
たった百日もない命であったが、今际の际に『もっと生きたい』と思えた我の人生は、この上なく幸福であった、と——

本章完
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